オンライン連載小説「リバウンド」

オンライン小説『リバウンド』-020  京都の医者

いまでは、小上がりでしたたか酔っ払っていた。
もう自分の部屋のようにだらだらら。妻子のある男なのだと認識しているのがうざったくなってきた。がっしりと体育系な肩、うっすらのびはじめているあごひげに目が行く。やばい兆候だ。みたことのないおっさんぽい靴下の柄を見つけてなんとか気持ちを落ち着けてみる。
「どうかした?」
「なんでもない」う~んばれてるかも。
ユウジンはよく飲んで、よく喋った。

興味深いことに、リバウンドに取り組む医師もいた。京都の開業医が独自の煎じ薬を提唱し、一定の入院をして江戸時代の食事にしてもとの身体にもどすというようなサイトを立ち上げた。たぶん彼の良心からの提示であったのだが、彼の想いはネット上にあまりにも簡単に間違って伝わった。『セラ』を使わないで「治療」をする医師がいるというテキスト現象だけがSNS、メーリングリスト、メールマガジン、ブログ、コメント、トラックバック、サーチエンジンを介してネット上に濁流のように流れ込んだ。さらに、彼が『セラ』を使用し続けた患者に免疫機能の破壊が見られるとブログに書き込んだことからサイトの投稿欄が炎上しネット上にパニックが発生した。アクセスは爆発しあっという間にサーバーがダウンしたが、迂回したネットワークを経由した情報がひとり歩きしながら増殖した。昼夜を問わず全国各地から「セラを使わない治療」を希望する患者が電車、夜行バス、クルマ、バイク、自転車、ヒッチハイクなどで京都の開業医に殺到した。病院の外には長蛇の列ができ路上にテントが貼られ周囲は野戦村のようになった。生きながらえるのに必死な患者らの生活排泄物は川にながれ、コンビニの袋に包まれたごみは路上に散乱し、全身包帯で覆われた人がうごめくその列からは小便臭がした。ときおり診察の順番をめぐり患者同士で喧嘩が頻発したが、ある日待ちきれない男性が窓を破って診察室に進入し、身の危険を感じた医師が警察を呼び事態を収拾させるという事態が起こった。その男性は他の患者らに叱責され列の最後尾に追いやられたが、テントの中で練炭を焚いて死んでいたところを4日後に発見された。

2021.9

12019 / Pixabay

 

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